2025.04.26 コラム

「人手不足」×「働く場がない」——農福連携は両者のニーズをどう満たすか?

深刻化する農業の担い手不足と、福祉現場が抱える就労支援の課題。これらは一見まったく異なる社会問題のように見えますが、「農福連携」というアプローチによって、両者のニーズを同時に解決しようとする動きが全国で広がりを見せています。

農福連携とは、農業分野において障害者や高齢者、引きこもり経験者など、就労困難な人々の力を活用する取り組みです。この取り組みが、なぜ今求められているのでしょうか?

農業の現場は「深刻な人手不足」

農業就業人口は年々減少しており、特に高齢化が大きな問題となっています。農林水産省のデータによると、基幹的農業従事者の平均年齢は70歳に近づいており、若い労働力の確保が急務です。

主な課題:

  • 若年層の農業離れ
  • 農閑期・繁忙期による雇用の不安定さ
  • 重労働・低収入による人材定着の困難

このような状況下で、柔軟な働き方が可能な「非定型労働力」のニーズが高まっています。

一方の福祉現場では「働く場がない」という問題

就労継続支援事業(A型・B型)に通う利用者の多くは、一般就労が難しい状況にありながら、「社会との接点を持ちたい」「働いて収入を得たい」という強い意欲を持っています。

しかし実際には、以下のような課題に直面しています。

就労支援側の課題:

  • 施設内作業の単調さや工賃の低さ
  • 地域との接点が少ない
  • 一般企業への就労定着率の低さ

働きたいのに働く場がない。そんな人々の「やりがい」や「社会参加」の機会として、農業というフィールドが注目されているのです。

農福連携が生み出す“相互補完”の関係

農福連携が注目される最大の理由は、「農業の労働力不足」と「就労機会の不足」という社会課題を、同時に解決できるポテンシャルを持っている点にあります。

農業側のメリット

  • 作業分担が可能になる(収穫・除草・選別など)
  • 継続的な労働力の確保
  • 地域とのつながりが強化される

福祉側のメリット

  • 自然と触れ合うことで心身に良い影響
  • 成果が目に見える作業で達成感が得られる
  • 地域社会との接点が生まれる

現場の声:実際にどんな変化があったか?

農福連携を実践する農家や福祉施設からは、次のようなポジティブな声が上がっています。

  • 「繁忙期に来てもらえるだけで本当に助かる」(農家)
  • 「利用者が“自分の野菜だ”と誇らしげに話してくれるようになった」(福祉施設職員)
  • 「農作業が日課になることで、生活リズムが整った」(利用者家族)

小さな積み重ねの中で、地域や本人の人生そのものに変化をもたらす事例が増えています。

成功の鍵は「適切なマッチング」と「継続性」

とはいえ、すべての農福連携がうまくいくとは限りません。双方の理解と、作業内容の適切な設計が重要です。

成功に必要な要素:

  • 無理のない作業工程の設定
  • 指導者・サポート体制の整備
  • 地域住民や企業の理解と支援

また、単発の取り組みに終わらず、年間を通じた「関わりの持続性」が、農福連携の価値を高めるポイントです。

まとめ:社会的包摂と地域活性を同時に叶える「農福連携」

農福連携は、単なる人手不足解消策でも、福祉政策の一環でもありません。農業と福祉という本来交わりにくい領域がつながることで、「人が活きる」「地域が変わる」可能性を秘めた持続可能な社会モデルです。

今後は、自治体・NPO・企業など多様なプレイヤーを巻き込みながら、この取り組みをさらに深化させていくことが求められています。