2025.05.03 コラム

食と福祉の融合:6次産業化で広がる農福連携の可能性

農業と福祉が手を取り合う「農福連携」。この取り組みは、障害者や高齢者の就労機会を創出するだけでなく、地域社会に新しい価値を生み出す動きとして注目されています。

その可能性をさらに広げるのが、農産物の「6次産業化」です。単なる農作業の提供にとどまらず、加工・販売・観光といった“付加価値のある仕事”に広げることで、農福連携のステージは新たな段階へと進化しつつあります。

6次産業化とは何か?

6次産業化とは、「1次産業(生産)」+「2次産業(加工)」+「3次産業(販売)」を組み合わせ、農業者自らが高付加価値化を図る取り組みです。
農家が自ら加工品や直販ビジネスを手がけることで、収益力を高めることができます。

例:

  • 自社農産物を使ったジャム、ジュース、ピクルスの製造・販売
  • 農園カフェや直売所の運営
  • 農作業体験ツアーや農泊ビジネスの展開

この6次産業化に福祉事業者や就労支援事業が関わることで、農福連携のフィールドが大きく広がるのです。

なぜ6次産業化が農福連携に向いているのか?

【1】障害者が活躍できる多様な工程がある

農作業だけでなく、加工、パッケージ、ラベル貼り、接客、販売など、作業内容が多様化することで、障害者一人ひとりの得意分野を生かしやすくなります。

作業の例:

  • ピクルスの瓶詰めやラベル貼り
  • ドライ野菜の袋詰め
  • 直売所での接客やレジ対応

【2】年間を通じた仕事を生み出せる

農業の課題である季節労働の偏りを、加工や販売といった通年事業によってカバーできます。これにより、安定した就労機会と収入が期待できます。

【3】地域との接点が広がり、福祉への理解も深まる

6次産業化によって商品を通じて地域住民や観光客とつながることで、障害者が社会の中で役割を持ち、地域との距離が縮まります。

実際の事例:成功する農福連携型6次産業

全国各地で、農福連携の6次産業化を成功させている事例が増えています。

【事例1】障害者が作るオリジナルジャムブランド(長野県)

地元の果樹園と福祉作業所が連携し、規格外果実を使ったジャムブランドを立ち上げ。
福祉施設の利用者が、収穫から加工、パッケージング、販売まで一貫して携わり、地域のマルシェやECサイトで販売しています。

【事例2】農園カフェでの就労支援(北海道)

農業法人と就労支援事業所が協働し、農園内にカフェを開業。
利用者がホールスタッフや厨房補助を担当し、接客を通じて地域住民と交流できる場を提供しています。

課題も:6次産業化における農福連携の注意点

魅力的な可能性がある一方で、次のような課題も存在します。

注意すべきポイント:

  • 高度な衛生管理が求められる加工場での障害者支援の体制
  • 商品開発やブランディングのノウハウ不足
  • 市場ニーズを読み違えるリスク
  • 利用者に無理のない作業工程とペース設定

6次産業化は「ビジネス」としての視点が不可欠なため、農業・福祉双方のサポートだけでなく、商業・マーケティングの知見も求められる点が特徴です。

まとめ:農福連携を「働きがいのある産業」に変える6次産業化

6次産業化は、農福連携を単なる労働提供の枠から、「モノづくり」「サービスづくり」へと進化させる可能性を持っています。

それは、働く人の誇りやモチベーションを引き出し、福祉の枠を超えた“地域の仕事”を生み出す力でもあります。

今後、農業者・福祉事業者・地域住民・企業が垣根を越え、共に商品づくりやサービスづくりに取り組むことで、農福連携はさらに深みを増し、地域の未来を支える柱のひとつとなるでしょう。