野菜の流通といえば、「農家 → 市場(卸売) → 小売店」というルートがこれまでの主流でした。
しかし近年、この“市場”を経由しない「産直卸(産地直送の卸取引)」という形態が急速に広がっています。
なぜ今、“産直卸”というスタイルが注目されているのでしょうか?
背景には、時代の変化とそれに応じた農業・小売業の新たなニーズがあります。
産直卸とは何か?
「産直卸」とは、市場(中央卸売市場や地方市場)を介さず、農家や生産団体から直接、スーパーや飲食店、消費者に野菜を卸すスタイルです。
市場の流通網を活用しないことで、
- 価格決定の柔軟性
- 鮮度の確保
- 関係性の構築
など、さまざまなメリットが生まれます。
なぜ広がっているのか?——3つの理由
① 中間マージンの圧縮と“フェアな価格”
市場を通す場合、卸売業者・仲卸業者・小売業者と複数のプレイヤーが関わるため、どうしても“中間マージン”が発生します。
産直卸では、この流通段階を減らすことで、生産者にはより高く、小売にはより安く提供できる「ウィンウィン」の価格形成が可能になります。
② 鮮度とスピードが求められている
飲食店やこだわりの小売業者の多くが、“採れたて”の鮮度を求めるようになりました。
産直卸では、収穫後すぐに発送することで、物流次第では「朝採れ → 翌日店頭」も実現可能。
これは市場流通では難しい、スピード感ある取引です。
③ ブランド化・個性化のニーズ
近年、スーパーやレストランでも「この農家さんの◯◯野菜」など、“顔の見える流通”が好まれるようになっています。
産直卸では、生産者ごとのストーリーや栽培方法などを伝えやすく、商品の“差別化”がしやすいというメリットがあります。
デメリットや課題はないのか?
もちろん、産直卸にも課題はあります。
- ロジスティクスの負担(発送や在庫管理など)
- 安定供給の難しさ(天候や収量の影響を受けやすい)
- 規模の限界(大手スーパー向けには量的に対応できないことも)
そのため、生産者単独ではなく、産地全体や連携体制を整えた「産地パッケージ」や「産直卸の仲介事業者」の存在が成功のカギになっています。
“売ること”から逆算する時代へ
かつては「つくってから売る」のが農業でしたが、いまは「売り先に合わせてつくる」発想が求められています。
産直卸は、単なる流通改革ではなく、“誰に届けるか”を起点にした農業スタイルの転換でもあるのです。
これからの卸の現場では、「市場を使う or 使わない」という二者択一ではなく、
- 商品やターゲットに応じて市場流通と産直を使い分ける
- 卸業者が産直機能を持つ
など、より柔軟な“ハイブリッド型”が主流になっていくかもしれません。
おわりに:流通の未来に「関係性」を
産直卸が広がる背景には、「顔が見える」「関係性が続く」「納得して買える」といった、数値では測れない価値が求められる時代の流れがあります。
売る人・買う人・作る人。
それぞれが無理をせず、信頼を育てながらつながっていく。
そんな“距離感の近い流通”が、これからの卸の新しいかたちになるのかもしれません。