2025.10.06 医療福祉

気候変動と野菜 ― 旬がズレる未来

「今年はほうれん草が早いね」
「夏野菜が秋まで採れてる」

そんな声が、農家や市場で聞かれる機会が年々増えています。
地球温暖化をはじめとする気候変動は、私たちの生活だけでなく、**野菜の“旬”**にも静かに、しかし確実に影響を与え始めています。

🧭 「旬」とは“自然とのバランス”

旬とは、本来その野菜がもっとも自然な環境で育つ時期を指します。
例えば、

  • ほうれん草 → 冬
  • トマト → 夏
  • 春菊 → 秋〜冬
  • 菜の花 → 春

これは、長年の気候・気温・日照のバランスによって築かれたリズムです。
しかし近年、そのバランスが崩れ始めているのです。

🌡 暖冬で「冬野菜」が早く出回る

気温が下がりきらない暖冬では、ほうれん草や春菊といった冬野菜の成長が早まり、
例年よりも早く出荷されるケースが増えています。

一見すると「早く出てくるのは良いこと」のように思えますが、

  • ピークのタイミングがずれる
  • 市場が一時的に供給過多になる
  • 価格の乱高下が起こる
  • といった“ひずみ”が発生します。

旬が前倒しになることで、市場全体のリズムが崩れるのです。

🌞 高温で「夏野菜」のシーズンが長引く

一方で、夏の高温傾向も影響しています。
本来であれば秋に終わるトマトやキュウリなどの果菜類が、
暖かさによって収穫時期が長引くケースが増えています。

生産者にとっては出荷期間が延びるメリットもある一方、

  • 次作への切り替えが遅れる
  • 土壌管理が難しくなる
  • 収穫のタイミングが分散する

などの課題も抱えています。

🌧 豪雨・猛暑・寒波 ― 旬を乱す「極端な気象」

近年の特徴は、平均気温の上昇だけではなく、

  • 豪雨の頻発
  • 猛暑日の増加
  • 突発的な寒波

といった極端な気象の増加です。

これらは野菜の成長スケジュールを狂わせる大きな要因。
ある年は豊作、ある年は不作――そんな極端な変動が起こりやすくなり、旬そのものが「安定しない」時代に入っています。

🚜 農家の対応 ― “旬を守る”ための工夫

こうした変化に対して、生産現場ではさまざまな工夫が始まっています。

  • 栽培カレンダーの見直し
  • ハウス栽培や遮光・加温などの環境制御
  • 耐暑・耐寒性のある新品種の導入
  • 産地リレーによる安定供給

旬をずらすのではなく、“旬を守るための技術と連携”が進化しているのです。

🧑‍🍳 消費者にもできること ― “季節の意識”を持つ

私たち消費者にも、できることがあります。

  • スーパーで「今が旬」の野菜を選ぶ
  • 直売所などで地元の季節野菜を買う
  • 季節外の野菜を「当たり前」と思わない

旬を意識することは、農業の負担を軽減し、地域の生産を支えることにもつながります。
“便利”の裏で失われていくものに、少し目を向けてみることが大切です。

まとめ ― 旬の風景は未来のバロメーター

気候変動は遠い未来の話ではありません。
それは、スーパーの野菜売り場の並び方にも現れています。

旬が前倒しになったり、ずれたり、短くなったりする――
それは、地球からの“静かなサイン”かもしれません。

季節と野菜のリズムを守るために、
生産者と消費者の双方が「旬の価値」をもう一度見つめ直すときが来ています。