「この野菜セット、実は福祉施設で袋詰めされているんですよ」
そんな一言をスーパーや直売所で耳にする機会が少しずつ増えています。
畑で収穫された野菜が、私たちのもとに届くまでの途中に障がいのある方が働く福祉施設が関わるケースが増えてきました。
それがいわゆる「農福連携」です。
とくに、物流の中でも“人の手”が欠かせない仕分け・袋詰めの工程は、農福連携と相性の良い仕事のひとつ。
今回は、その現場を少しだけ覗いてみます。
どんな仕事をしているのか?
福祉施設で行われている主な作業は、たとえばこんなものです。
- 野菜をサイズごと・本数ごとに仕分けする
- 規定のグラム数を量って袋詰めする
- 汚れや傷がないか、目視でチェックする
- シール貼り・ラベル貼り・トレーへの盛り付けを行う
- セット商品の場合は、数種類の野菜を決められた組み合わせで詰める
「軽作業」という言い方をされることも多いですが、実際には正確さ・根気・丁寧さが求められる仕事です。
1袋のグラム数がズレていないか、本数は合っているか、見た目に問題はないか…。
こうした細かい確認を黙々とていねいに積み重ねていくことで、店頭に並ぶ商品としての信頼が生まれます。
なぜ物流の現場と相性が良いのか
農福連携で、なぜ仕分け・袋詰めの仕事が選ばれやすいのか。
そこには、お互いにとってのメリットがあります。
農家・物流側のメリット
- 人手が必要な細かい工程を、安定的に任せられる
- 袋詰めやセットアップ済みの状態で受け取れるため、その後の流通・販売がスムーズになる
- 「農福連携に取り組んでいる」という社会的な評価・ブランド価値にもつながる
福祉施設・利用者側のメリット
- 作業手順がある程度パターン化しやすく、訓練しやすい
- 座り作業・立ち作業など、個々の特性に合わせて分担しやすい
- 自分たちが詰めた野菜が“商品として並ぶ”ことで、やりがい・自己肯定感につながりやすい
「単純だけど、大切な仕事」。
そのバランスが、農福連携と物流の相性を良くしていると言えます。
品質を守るための工夫
食べ物を扱う以上、衛生面や品質管理は欠かせません。
農福連携×物流の現場では、こんな工夫がされています。
- 作業前後の手洗い・消毒、帽子・エプロン・マスク着用
- 作業台・はかり・コンテナの定期的な清掃
- 作業工程を「チェックリスト」や「写真付きマニュアル」で見える化
- 重さ・本数チェックを“ダブルチェック”にするなどの仕組みづくり
福祉施設のスタッフが農家や出荷団体からの指導を受けながら「わかりやすいルール」と「続けやすいやり方」に落とし込んでいくのも重要な役割です。
現場ならではの悩みと、乗り越え方
もちろん、良いことだけではありません。
現場ならではの悩みも存在します。
- 野菜の入荷量が天候で急に変わる → 作業量の波が大きくなる
- スピードと正確さのバランス → 早くやろうとしてミスが増えるジレンマ
- 忙しい時ほど、支援スタッフの見守り・フォローが必要になる
こうした課題に対して、
- 余裕がある日に「ラベル貼り」など事前にできる作業を進めておく
- 一人ひとりの“得意な作業”を見つけて、役割を分担する
- 難しい工程はスタッフが担当し、利用者はその前後の工程を担う
といった形で、仕組みと役割分担でカバーしている現場が多くあります。
“ストーリー”が商品価値になる時代へ
最近では、
- パッケージやPOPに「この野菜は◯◯福祉施設で袋詰めしています」と記載する
- SNSやWebサイトで、農福連携の取り組みを発信する
といった形で物流の一部としての農福連携が、ブランド価値やストーリーにもなり始めています。
「安いから買う」だけでなく、「誰が関わっている商品なのか」「どんな背景があるのか」を重視する人が増えている今、農福連携の現場は社会と農業と物流をつなぐ接点にもなりつつあります。
おわりに:野菜の袋の向こう側にいる人たち
スーパーで何気なく手に取る、1袋の野菜。
その裏には、
- 畑で育てた農家さん
- 仕分け・袋詰めをしている福祉施設の利用者さんとスタッフ
- それを運ぶ物流の現場
といった、たくさんの人の手がつながっています。
もし次に「野菜の詰め合わせセット」や「規格外野菜の詰め放題」などを見かけたらその袋の向こう側に農福連携の仕分け・袋詰めの現場があるかもしれない――
そんな視点で眺めてみるといつもの野菜が、少しだけ温かく見えてくるはずです。