2025.05.16 コラム

“農業版インフレ”到来?

円安と物流のダブルパンチで、夏野菜にじわじわと値上げの波が押し寄せています。背景には、生産現場の苦悩と構造的なコスト高が隠れています。

円安が押し上げる「見えないコスト」

2025年の円安基調が長引く中、農業資材の価格が軒並み上昇しています。
とくに影響が大きいのは、肥料、農薬、ハウス用ビニールなどの輸入依存度の高い資材類です。
これらの調達コストが1.3~1.5倍に跳ね上がり、野菜を「作る前」から採算が悪化する状況が続いています。

生産者は節約の工夫を重ねながらも、「作れば作るほど赤字になる」状態に追い込まれ、規模縮小や撤退を選ぶ農家も少なくありません。

物流問題が追い打ちをかける

さらに深刻なのが物流の課題です。2024年から始まった「物流2024年問題」によって、長距離トラックの運行制限や人手不足が表面化。加えて燃料価格の上昇も重なり、野菜を運ぶコストが跳ね上がっています

特に、北海道や九州などの遠隔地で生産される夏野菜は、輸送費の増加によって価格が割高になりがちです。消費者が高いと感じるその背景には、「運ぶためのコスト」が大きく影響しているのです。

価格転嫁できない現場の苦悩

一般企業であれば、仕入れ価格が上がれば製品価格に反映するのが自然です。しかし、農業ではそう簡単にはいきません。

農家は市場の相場やJAの取引価格に従うため、価格を自由に設定することが難しいのです。
たとえ生産コストが上がっても、出荷価格が追いつかず、赤字になるケースが増えています。

また、消費者の家計も苦しい中、強気な価格設定には限界があります。結果的に、**「高く売れないのに原価は上がる」**というジレンマに陥っているのです。

食卓の変化に、どう向き合うか

こうした「農業版インフレ」は、消費者にとっても他人事ではありません。
価格が高くなれば家計を圧迫し、買い控えにつながる。するとさらに農家の収入が減る…という悪循環に発展しかねません。

私たちにできることとして、以下のような行動が考えられます:

  • 地元産・産直品を選ぶ
  • 形が悪くても品質に問題ない“訳あり野菜”を活用する
  • 夏野菜の価格高騰時期には、冷凍野菜や加工品を上手に取り入れる

知ることで支えられることがある

夏野菜が高い背景には、気候変動だけでなく、経済と物流という“人の手による仕組み”が深く関わっていることが見えてきます。
スーパーの棚に並ぶ野菜一つひとつが、いま大きな構造の中で揺れ動いているのです。

“高いな”と感じたとき、それが何に由来するのかを知ることは、農家を守り、持続可能な食卓を作る第一歩になります。