青果市場や産地の集荷場では、毎日のように多種多様な野菜が取引されています。
しかし、そのすべてが“売れる”とは限りません。
出荷されたはずの野菜が行き先を失い、売れ残ってしまう——それが「ロス(余剰)」の現実です。
では、なぜ売れ残りが起きるのでしょうか?
そして、それを減らすために卸の現場ではどんな工夫をしているのでしょうか?
今回は、青果卸の立場から「ロスの構造」と「その対策」をひも解いてみます。
売れ残る理由は、必ずしも“品質”ではない
「売れ残り」と聞くと、品質が悪かったのでは?と思われるかもしれません。
しかし実際は、以下のような要因でロスが発生することが多いのです。
天候と重なった“供給過多”
全国的に気候が安定し、各産地が一斉に出荷すると、一時的に需要を超えてしまい、在庫が過剰に。結果、価格は下落し、売れ残りが発生します。
需要の読み違い
飲食店や量販店などの注文数を過大に見積もると、納品できなかった在庫がそのまま余ることも。
配送遅延やタイミングのズレ
市場に届く時間が遅れたり、曜日や時間帯が悪かったりすると、“いい品”でも見送られることがあります。
ロスの行き先——廃棄だけじゃない?
売れ残った野菜がすべて廃棄されるわけではありません。
卸担当者は、できる限り“次の行き先”を探します。
- 加工業者への転売(カット野菜・総菜工場など)
- 社内での“値下げ販売”
- 地元の福祉施設やフードバンクへの無償提供
- 場合によっては社員が引き取る
ただし、鮮度の短い青果物は「時間との勝負」です。
どれだけネットワークを持っていても、すぐに判断・調整ができなければ、間に合いません。
ロスを減らすための工夫
卸の現場では、以下のような取り組みが進んでいます。
① 需要予測の精度を上げる
過去データ、気温、イベント、曜日などからAIを活用して需要を予測する取り組みも進んでいます。
② 小ロット対応・分割出荷
注文単位を柔軟にし、売れ残りのリスクを下げる方法。少量多品目のニーズにも対応できる体制が重要です。
③ “訳あり”品の販路開拓
規格外や過剰在庫をECサイト、飲食店、フードロス専門業者に流す“サブチャネル”を持つことでロスを減らせます。
④ 生産者との密な連携
「今週は出荷控えめにしておこう」「このタイミングなら売れそう」など、生産者と事前に調整することで余剰を防げます。
ロスの裏には「もったいない」だけじゃない葛藤も
卸担当者にとって、売れ残りは単なる経済的損失ではありません。
「せっかく育ててくれた野菜を無駄にしたくない」
「畑の努力を活かしきりたい」
——そうした想いがあるからこそ、ロスは“心の負担”にもなります。
だからこそ、「売れなかったらどうするか」ではなく、「どうすれば売れるか」に全力を注ぐ。
そのために、日々、流れを読み、人を動かし、品物に向き合っているのです。
おわりに:ロスはなくせない、でも減らせる
自然相手の青果物流通において、“ロスゼロ”は理想論かもしれません。
でも、工夫と連携次第で「ロスは確実に減らせる」——それが現場の実感です。
“売れ残り”の背景には、たくさんの判断と、努力と、工夫がある。
そんな卸のリアルを、これからも伝えていきたいと思います。