2025.12.18 医療福祉

グループホームのBCP入門:停電・断水・通信断で最初に守るもの

地震や台風、大雪などの災害時、グループホームで起きやすいのが「停電」「断水」「通信断」が同時に重なる状況です。備えが不足していると、日常のケアが一気に“危機対応”に変わり、入居者様・職員双方に大きな負担がかかります。

BCP(事業継続計画)は難しく感じるかもしれませんが、最初の一歩はシンプルです。まずは「最初に守るもの」を明確にし、72時間(3日間)を乗り切る段取りを作ること。この記事では、停電・断水・通信断のときに何を優先し、どう動けばよいかを実務目線で整理します。

BCPで最初に守るもの(優先順位の基本)

災害時は「全部やろう」とすると現場が崩れます。まずは優先順位を固定しておくと、判断がブレにくくなります。

  • ① 命・健康(医療的リスクの回避)
    呼吸・体温・水分・食事・服薬・必要な医療機器が最優先です。
  • ② 安全(事故・二次被害の防止)
    転倒、火災、ガラス破損、感染、誤嚥などを防ぎます。
  • ③ 情報と連絡(状況把握と意思決定)
    自治体情報、家族連絡、医療機関・関係先連絡。通信断時の代替手段が重要です。
  • ④ 継続(職員体制・物資・記録)
    人・モノ・情報(記録)を回し、3日を越える長期戦に備えます。

停電・断水・通信断で起きる“現実的な困りごと”

それぞれ単独なら何とかなることも、重なると一気に難易度が上がります。代表的な困りごとを先に把握しておくと、準備が具体化します。

  • 停電:照明がない/エアコンが止まる/冷蔵・冷凍が弱る/IH・電子レンジが使えない/ナースコールや見守り機器が止まる/スマホ充電ができない
  • 断水:飲み水不足/トイレが流せない/手洗いができない/食器洗いが難しい/清拭・洗濯が回らない
  • 通信断:家族・関係先に連絡できない/救急要請や相談が遅れる/職員招集ができない/自治体情報が取れない

最初の行動(発生直後〜最初の1時間)

発生直後は「現場の安全確認」と「優先度の高いリスクのつぶし込み」を同時に進めます。ここをテンプレ化しておくと混乱が減ります。

  • 1)全員の安否確認(人数・負傷・体調)
    点呼、転倒や外傷、持病悪化の兆候、服薬が必要な方の状況を確認します。
  • 2)危険の除去(火・ガラス・転倒)
    火気の確認、割れ物や倒れた家具の危険箇所を封鎖します。暗い場合はまず照明確保です。
  • 3)医療的に最優先の方を特定(“要観察リスト”)
    医療機器依存、呼吸器疾患、脱水リスク、糖尿病、認知症で混乱が強い方などを先に把握します。
  • 4)情報収集の起点を作る
    ラジオ等の情報源を確保し、「誰が」「どの頻度で」情報更新するか決めます。
  • 5)記録開始(簡易でOK)
    発生時刻、状況、対応、服薬、体調変化をメモします。後で必ず役に立ちます。

72時間を乗り切るための「3つの確保」

停電・断水・通信断の場面で、最初に確保すべきは次の3つです。ここが固まると、対応の見通しが立ちます。

  • ① 生命維持に必要なもの(体温・水分・服薬)
    室温管理(暑さ寒さ)、飲水量、服薬の継続。必要な医療機器や保冷が必要な薬がある場合は最優先で段取りを組みます。
  • ② トイレと衛生(感染と尊厳)
    断水時は特にトイレが詰まります。簡易トイレ、凝固剤、手指衛生(ウェットシート等)を“回る形”にします。
  • ③ 連絡の代替手段(意思決定)
    通信断が長引くほど、医療・家族・行政との連携が難しくなります。代替連絡手段と連絡ルールを決めます。

停電時の実務:優先チェックリスト

停電は「暑さ寒さ」「暗さ」「充電」の3点が主戦場になりやすいです。設備よりも運用で差が出ます。

  • 照明:懐中電灯・ヘッドライトを優先配備(両手が空くものが便利です)。転倒リスクの高い導線(廊下・トイレ)を最優先で照らします。
  • 室温:毛布・保温、扇子・冷却材、遮熱/保温の工夫(カーテン、部屋の集約)で“人を守る場所”を作ります。
  • 冷蔵:冷蔵庫は開閉回数を減らし、必要物の出し入れをまとめます。保冷が必要な薬がある場合は代替保冷手段を優先します。
  • 充電:モバイルバッテリーの使用ルールを決め、「連絡用端末」「情報収集用端末」に優先配分します。
  • 見守り:機器が止まる前提で、巡回頻度・担当区分を一時的に増やします(夜間体制の見直しが重要です)。

断水時の実務:トイレと衛生を崩さない

断水で一番早く詰むのは、実務的には「トイレ」です。次に「手指衛生」。この2つが崩れると感染・体調悪化が起きやすくなります。

  • 飲水:飲み水を優先配分し、脱水リスクが高い方は観察を強化します。
  • トイレ:簡易トイレ(凝固剤・袋)を“標準運用”に切り替えます。設置場所、廃棄場所、臭気対策を決めます。
  • 手指衛生:アルコール、ウェットシート、手袋を活用し、排泄介助前後の衛生を落とさない運用にします。
  • 食事:食器洗いを前提にしない(紙皿・使い捨てカトラリー)運用に切り替えます。
  • 清拭:入浴ができない前提で、清拭の優先順位(感染リスク・皮膚トラブル・本人の不快感)を決めます。

通信断時の実務:連絡できない前提で設計する

通信断が怖いのは、連絡が取れないこと以上に「意思決定が止まる」点です。通信断を前提に、施設内で判断できる範囲を決めておくことが重要です。

  • 代替情報源:電池式ラジオ等で自治体情報を取得し、掲示板やホワイトボードで共有します。
  • 連絡の優先順位:「医療(緊急)→行政→家族→関係各所」のように順番を決めます。
  • 紙の連絡先:スマホが使えない前提で、家族・医療機関・行政・業者の連絡先を紙で保管します。
  • 職員招集:連絡網(誰が誰に)と集合基準(いつ・どこへ)を事前に決めます。

時間軸で見る:0〜72時間の動き方(簡易版)

BCPは「何をいつやるか」が決まっているほど強いです。現場で使いやすいように、時間軸で整理します。

時間最優先やること(例)
0〜1時間安否・安全点呼、危険除去、要観察者の特定、記録開始、情報収集
1〜6時間生命維持水分・服薬の確保、室温対策、トイレ運用の切替、充電配分
6〜24時間運用安定食事の簡素化、衛生ルールの固定、巡回体制の強化、連絡手段の確保
24〜72時間継続判断物資の残量管理、職員ローテ、長期断絶を想定した代替計画、必要時の避難判断

備蓄は「量」より「回る形」

備蓄は多ければ安心、ではありません。実際に必要なのは「どこにあるか分かる」「誰でも取り出せる」「使い方が決まっている」ことです。最低限、次のセットは“ひとまとめ”で管理しておくと運用しやすくなります。

  • 停電セット:懐中電灯/ヘッドライト、予備電池、モバイルバッテリー、延長コード、電池式ラジオ
  • 断水セット:飲料水、簡易トイレ(袋・凝固剤)、ウェットシート、手袋、ゴミ袋、消臭
  • 食事セット:加熱不要の食品、紙皿・使い捨て食具、衛生用品
  • 医療・ケアセット:個別の重要情報(服薬・注意点)、体温計、衛生用品、必要に応じた保冷手段
  • 情報・連絡セット:紙の連絡先、施設内掲示用ボード、筆記具

BCPを“現場で使える”形にするコツ

分厚い計画書より、現場が動ける「道具」を用意する方が効果的です。おすすめは次の3つです。

  • ① アクションカード(1枚)
    「最初の1時間でやること」「担当」「チェック項目」を1枚にまとめます。
  • ② 要観察者リスト(更新前提)
    医療的に優先が必要な方、服薬上の注意、緊急連絡先を最新に保ちます。
  • ③ 連絡ルール(通信断の代替)
    誰が情報を取り、誰に共有し、誰が外部連絡するか。通信断時の手段も含めて決めます。

最後に:判断が難しいときの考え方

災害時の判断は、正解が1つではありません。迷ったときは「命・健康」を基準にし、室温・水分・服薬・安全確保が維持できるかで継続可否を考えます。行政の情報、医療機関の助言、事業者としてのルール(避難基準)を事前に整えておくと、現場の負担が減ります。

BCPは“書いて終わり”ではなく、“使える形にして続ける”ことで効果が出ます。まずは最初の1時間72時間を乗り切る最低限の仕組みから整えていくのがおすすめです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の医療的判断や対応は、主治医・関係機関・自治体の方針に従ってください。